【書評】ジェレミー・シーゲル「株式投資の未来」を読んだ
副題 : 永続する会社が本当の利益をもたらす
原題:The Future for Investors
2005年11月 第1版 出版 日経BP社 著者 : ジェレミー・シーゲル 翻訳 : 瑞穂のりこ
キーワード : 成長の罠、黄金銘柄、高齢化危機、D-I-V指針
通称「赤本」。米国株投資の長期投資におけるバイブルとも呼ばれる名著です。
- これから米国株に挑戦したいと考えてる
- セクター戦略・インデックス投資など長期資産運用の基本的な考え方をキチンと身に着けたい
- 人工知能AI・量子コンピュータといった話題の株に注目しているけど、大丈夫?
このような皆さんに、おすすめの一冊です。
なお、本書の理論は米国株に適用しています。日本株への適用は、ご注意ください。
目次
「株式投資の未来」とは、どんな本?
時は、インターネット・バブル崩壊後の2000年代の米国株式市場。
シスコ、マイクロソフト、インテル、デル、サン・マイクロシステムズなど高騰に湧いたハイテク銘柄が鳴りを潜めて、11,000$台を超えたダウ平均が8,000$台まで落ち込んだ時期です。
長期資産運用の基本的な考え方、急騰する注目株投資への警鈴『成長の罠』を記しています。
参考 : インターネット・バブル (Wikipedia)
著者「ジェレミー・シーゲルさん」とは
100年以上の歴史持つ、名門ペンシルバニア大学ウォートン校の教授です。
ウォートン校は、米国が初めて設立したビジネススクールとして知られています。
金融を中心にマーケティング・マネージメント分野のプログラムが充実しており、ドナルド・トランプ大統領や、起業家イーロン・マスク氏も本校の卒業生です。
シーゲル教授は金融分野の専門家であり、CNBCなどのメディア出演もしている著名人です。
1945年 イリノイ州シカゴのご出身、2020年9月時点で74歳。
本書は50代の頃に出版した書籍となります。
参考:ジェレミー・シーゲル教授 (Wikipedia-英語版)
本書以外の出版物は、【株式長期投資-Stocks for the Long Run】(通称 緑本) があります。
1994年に出版しており、2009年に第4版まで改定されました。
緑本は、本書の基礎である「なぜ、長期投資なのか」を丁寧に記していました。
なぜ、本書を執筆したのか
本書の冒頭で、2つの目的を挙げています。
わたしは個人投資家やファンドマネージャを前にして講演する機会に何度も恵まれた。
株式投資の未来 「序文」より引用
講演後の質疑応答で、かららず訊かれる質問がふたつあった。
「買い持ちするなら、具体的に、どの銘柄を買えばいいだろう?」と、「ベビーブーマ世代が退職して、株や債券を売り始めたら、わたしの株や債券はどうなる?」のふたつだ。
わたしが本書『株式投資の未来』を執筆したのは、このふたつの問いに答えるためだった。
1つ目の質問「どの銘柄を買えば良い?」の答えは、「第2章・第3章」で語られていました。
2つ目の質問「将来、株や債権はどうなる?」への答えは、「第13章・第14章」で記しています。
早い段階で結論を提示して、その根拠・背景・解決案を語る文書構成です。
この構成は非常に読みやすく、また再読性が高いなと感じています。
本書の冒頭において、「投資家の未来は明るい」とシーゲル教授は語っています。
もし、考え方に共感を覚えて実践を試みるなら、何度も読み返すべき良書です。
どんな目次?
本書は、大きく5部で構成されています。
第1部「成長の罠」を暴く 第1章 成長の罠 第2章 創造的な破壊か、創造の破壊か? 第3章 時に裏打ちされた価値 -黄金銘柄を探して- 第4章 成長すなわちリターンにあらず -成長セクター投資に潜む罠- 第2部 過大評価される成長株 第5章 バブルの罠 -市場の多幸症をどう止め、どう避けるのか- 第6章 新興の中の新興に投資する -新規公開株(IPO)- 第7章 資本を喰う豚 -テクノロジー:生産性の源泉にして価値の破壊者- 第8章 生産性と収益 -負け組業界の勝ち組経営陣- 第3部 株主価値の源泉 第9章 金をみせろ -配当とリターンの企業統治- 第10章 配当再投資 -下落相場のプロテクター、上昇相場のアクセル- 第11章 利益 -株主リターンの源泉- 第4部 高齢化をめぐる危機と世界経済の力学シフト 第12章 過去は未来のプロローグか? 第13章 変えられない未来 -目前に迫る高齢化の波- 第14章 高齢化の波を乗り越える -役立つ政策、役立たない政策- 第15章 世界的解決 -真のニューエコノミー- 第5部 ポートフォリオ戦略 第16章 世界市場と国際ポートフォリオ 第17章 未来に向けた戦略 D-I-V指針
読書後の感想
力強い銘柄選びの指針
株式投資、特に米国株に手を付けようとしている方は、本書を読むと良いでしょう。「時に裏打ちされた勝利」という説得力がとても力強く、銘柄を選ぶための道標となってくれるはずです。
人口動態と未来予測の融合
第4部からは銘柄選定から離れて未来予測が始まります。
興味深かったのは、米国視点で日本の高齢化問題を語っている点です。
日本だけでなく、アメリカでも労働者人口が減っていくことによる社会保障の危機を読んでいます。
ここから経済的な危機に対して、解決策を提案している点は勉強になりました。
改めて考える分散投資、グローバル・ポートフォリオ戦略
投資の基本中の基本とも呼ばれる「分散投資」。資産を分散して持つことは、リスク分散と同時に、リターン分散もかかります。つまり、単純に分散投資していても資産は増えません。
投資銘柄がどのようなリスクを抱えており、どのようにリターンを産み出してるのかをしっかり抑えた上で、意図を持ったポートフォリオを構築することが、分散投資効果を享受できるものだと、改めて気づきました。
1つ1つの銘柄と向き合いながら、日々の相場の熱に流されず、意思を持って投資していきたいと学びました。
どの戦略にしても、卓越したパフォーマンスが保証されているわけではない。どれを選んでも、ほぼ間違いなく、市場平均を下回る時期があるはずだ。
株式投資の未来 「第17章 未来に向けた戦略 D-I-V指針」 – インデックス投資とリターン補完戦略より
〜〜〜〜中略〜〜〜〜
ただし、次の点も覚えておきたい。多少のリスクを取らないかぎり、市場平均を上回るリターンは決して手に入らない。ごく一般的なインデックス・ファンドですら、債権市場の平均を下回ることがある。歴史を通じて、株式のリターンが債権をここまで大幅に上回ってきた理由のひとつは、投資家がリスクをとったからにほかならない。