【書評】「みずほ銀行 システム統合、苦闘の19年史」を読む
2020年2月 出版 日経BP
著者 日経コンピュータ編集部 – 山端宏実,岡部一詩,中田敦,大和田尚孝,谷島宣之
みずほ銀行のシステム統合・刷新に関わるノンフィクションです。
システム屋さんだけでなく、学生やビジネスに携わる多くの人が、社会インフラを支えている静かな存在に気づける本になります。
- 銀行の基幹とも呼ばれる勘定系システムの開発事例が知りたい (例えば、ビジネスマンの教養として)
- 新しい勘定系システム(MINORI)は、どのようなシステムなのか学びたい (例えば、学生さんの知識として)
- なぜ、みずほ銀行で2度の障害が発生したのか、振り返りの知見を得たい (例えば、エンジニアの教訓として)
このような皆さんに、おすすめしたい一冊です。
目次
「みずほ銀行 システム統合、苦闘の19年史」とは、どんな本?
本書は、2019年7月に全面稼働を遂げた、みずほ銀行の勘定系システム(MINORI)までの歩みを記しています。
著者「日経コンピュータ編集部」とは
株式会社日経BPが持つ専門誌「日経コンピュータ」の編集部門です。
隔週木曜に月2回の定期出版をしており、ITに関する総合的な情報を提供しています。
参考:日経コンピュータについて
なぜ、本書を執筆したのか (考察)
本書の冒頭で、このように語っています。
みずほ銀行における「勘定系システム」の刷新と統合のプロジェクトが、2019年7月に完了した。
みずほ銀行システム統合 苦闘の19年史「はじめに」より引用
本書の目的は、その情報システム開発プロジェクトの全貌を解き明かすことにある。
勘定系システムは、1960年代に日本で構築され始め、1980年代に広く普及したシステムと言われます。「メインフレーム」と呼ばれる大型計算機を中心に置いた構成であり、24時間/365日止まらないことをミッションに課した、お金を動かすシステムです。
インターネットバンク、ATM、投資、融資など、銀行業務を根底から支えているシステムである一方、勘定系システムに関わっている技術者はシステムとともに高齢化しており、技術者不足は深刻な課題とされているのが取り巻く状況です。
2025年の崖から落ちないために、企業は老朽化した基幹系システム(≒勘定系システム)にどう向きあって、問題を解決していけばいいのか。本書が紹介するみずほFGの歩みが参考になるはずだ。
みずほ銀行システム統合 苦闘の19年史「はじめに」より引用
2025年の崖とは、経済産業省が2018年9月に発表したレポートで触れている言葉です。
2025年までに「古いシステム」を、新しく・広く活用できる形に変化(デジタルトランスフォーメーション:DX)できないと、その後に甚大な経営的損失を被る見通し。と説明しています。
参考:DXレポート -ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開- (経済産業省)
勘定系システムは、まさに「古いシステム」の象徴的な存在です。
みずほ銀行の取り組みこそが、近い将来を見据えた教訓となるため、その歩みの全貌を広く共有していく意義で本書を出版されたものと感じました。
どんな目次?
本書は、大きく3部で構成されています。不思議なのは、時を遡るように構成している点です。一度最後まで読み、戻るように読み返すのも良いでしょう。
第1部 IT業界のサグラダファミリア、ついに完成す(2004年〜2019年7月までの話) 第1章 巨大プロジェクトはこうして始まった 第2章 新システム「MINORI」の全貌 第3章 参加ベンダー1000社のプロジェクト管理 第4章 1年がかりのシステム移行 第5章 次の課題はデジタル変革 第6章 「進退を賭けて指揮した」 特集 みずほフィナンシャルグループ 坂井辰史社長 インタビュー 第2部 震災直後、「またか」の大規模障害(2011年3月〜2011年5月までの話) 第7章 検証、混迷の10日間 第8章 重なった30の不手際 第9章 1年かけた再発防止策 第3部 合併直後、「まさか」の大規模障害(1999年〜2004年までの話) 第10章 現場任せが諸悪の根源 第11章 無理なシステム統合計画を立案 第12章 大混乱の2002年4月
1990年代のバブル崩壊に伴い、銀行各社は不良債権を多く抱えこみます。みずほ銀行の前身である3行(旧第一勧業銀行、旧富士銀、旧興行銀行)も、例外になく各社1兆円規模の不良債権を抱えていました。
参考:みずほフィナンシャルグループ – 歴史 – 前身 (Wikipedia)
本書は、追い詰められた状況下の1999年の経営統合発表を原点に置いています。世は、ITバブルの成長期まっただ中。IT投資、IT活用を強調した記者会見。”大企業とも言える3行が、1980年代のシステムを統合して、世界規模の金融グループになる” というノンフィクションです。
読書後の感想
読み物の書籍で、ここまで構成図が出てくるのも珍しい
本書は技術書ではなく、ノンフィクションな物語を読む本だと思って手に取りましたが、構成図が多くて色々と勉強になりました。構造に触れた情報が多く、システム屋さんとしては大規模プロジェクトの開発事例を学ぶ上で、とても参考になります。反面、システム屋さん以外には難しいコンテンツに見えるのかなとも感じました。
システム以上に難しい、組織の統合
第3部が秀逸です。
統合方針の変更、不毛な機能比較、膨らむ統合費用など、メーカー含めた各社の思惑が語られます。2002年4月に向けた開発現場の様子は想像に難く、組織一丸ということの難しさを強く感じました。
成長とは何か
「あなたのために」は、確かに美徳です。
オーダーメイド、丁寧な気遣い、おもてなし精神は、システムの中にしっかりと織り込まれています。その結果、多くの点で人手が介在している状況が続いています。少子高齢化が進み、働き方の転換を迫られている昨今において、この美徳が「2025年の崖」を広げているように見えます。
本書の最後で述べている文書には大変共感しました。このプロジェクトがもたらしたものは、システムだけではなく、人・組織の成長そのものです。これを教訓に携え、2025年の崖から更に先を見据えて、私自身も1つ1つの選択に努めようと感じました。
「人が育った」
みずほ銀行 システム統合 苦闘の19年史 「おわりに」より
みずほフィナンシャルグループの坂井辰史社長は、システム完全統合プロジェクトの成果についてこう述べた。取材に応じたみずほ幹部や現場のシステム担当者、プロジェクトを支えたITベンダーの幹部も同じ話をしていたのが印象的だ。